――「“できたこと”に目を向ける」
「今日も何もできなかった」
休職中、そんなふうに自分を責める毎日が続いていました。
でも、あるときふと「本当に何もできていなかったのかな」と立ち止まったのです。
そこから始まった小さな変化は、私にとって回復の第一歩になりました。
休職してしばらくは、何もできない自分に絶望していました。
朝起きられない。
ご飯が喉を通らない。
テレビの音がうるさく感じて、携帯を見るのも億劫で。
「今日も何もしなかった」
毎日そう思っては、自分を責めていました。
でも、ある日ふと気づきました。
――今日はカーテンを開けられた。
――好きだった音楽を1曲だけ聴けた。
――夕方、5分だけ散歩に出てみた。
「何もしなかった」と思っていたその日にも、確かに“できたこと”があったのです。
私はその日から、小さな「できたこと日記」をつけ始めました。
・朝、決まった時間に起きられた
・ネイルを塗り直した
・お風呂に入った
・お気に入りの香りを枕元に置いて寝た
たったこれだけのことでも、「自分を大事にできた」と感じられました。
その感覚は、少しずつ私の自己否定を溶かしてくれました。
あるとき、休職前に通っていたヨガ教室の先生が、
「できる範囲だけでいいから、おいで」と声をかけてくれました。
緊張しながら参加したヨガの時間。
マットの上で目を閉じて、自分の呼吸だけに意識を向けたとき、
涙がすっとこぼれました。
「わたし、今、ちゃんと生きてる」
そう思えた瞬間でした。
ネイルサロンや美容室にも、少しずつ通えるようになっていきました。
人の手に触れてもらうという行為が、こんなにも温かくて、優しくて、
「大丈夫だよ」と言ってもらっているような気がしました。
少しずつ、自分の“好き”を思い出していく時間。
それは、過去の自分を取り戻すのではなく、
「今の自分に合った心地よさ」を見つけていく作業だったのだと思います。
「頑張らなきゃ」「治さなきゃ」と思っていた頃には見えてこなかったことが、
「ただ、今日できたこと」に目を向けるようになってから、少しずつ見えてきました。
回復とは、“すごいこと”ができるようになることではありません。
・昨日より、少し笑えた
・今日は、好きな本を手に取れた
・夜、安心して眠れた
そんな小さな積み重ねが、
「生きてていいんだ」と思える気持ちにつながっていったのです。
私は今でも、時々「できなかったこと」に目がいってしまいます。
でも、そんな日は、手帳にこう書くようにしています。
「今日も、生きていた」
それだけで、十分だと。