これはかつて「もう生きられない」と思った私が、もう一度歩き出すまでの記録です。
心も体も限界だったあの日、ひとつの言葉が私を救ってくれました。
その言葉は、静かに、でも確かに、私の中に小さな希望の種を残してくれたのです。
まずは、その夜のことから書き始めようと思います。
――「絶対に守ってあげるから」
あのとき、私は本気で「もう終わりにしよう」と思っていました。
真夜中のベランダで、膝を抱えてしゃがみ込んでいた私は、気づけば涙が止まらなくなり、心も身体もすっかり冷えきっていました。目の前の空はぼんやりと滲み、現実感がどこか遠くにあるような感覚でした。
誰にも相談できなかったのです。
弱音を吐いたら見捨てられるのではないか、これ以上迷惑をかけたくない。
そんな言葉が、何層にもなって私の中に積み重なっていました。
そのとき、ガラリと音を立ててベランダの扉が開きました。そこにいたのは母でした。
母は私の目の前にしゃがみ込み、何も言わず、そっと肩を抱いてくれました。
そして小さな声で、こう言ったのです。
「大丈夫。絶対に守ってあげるから」
その言葉に、私は声を上げて泣きました。
母はとくに言葉の多い人ではありませんでしたし、これまで何かを「守る」と宣言してくれたこともありませんでした。
でもそのときの母の声は、とても静かで、とても強かったのです。
私は、あの言葉に生かされたのだと思っています。
あの夜を境に、少しずつ変わりはじめました。すぐに前を向けたわけではありませんが、あの言葉は、心の奥深くに種のように残っていました。
今、こうして文章を書いている私は、まだ回復の途中にいます。
でも、あのとき「もう終わりにしたい」と思っていた自分からは、確かに少し遠ざかっています。
だからまずは、この物語のはじまりに。
私が「生きていてよかった」と思える、ひとつ目の言葉を記しておきたいと思います。