第2章 病気が生活を奪っていった日々

うつ病体験記

――「普通に過ごすこと」が、どうしてこんなに難しいの?

病名がつく前、私はただ「おかしくなったのかな」と思っていました。

毎日がいつも通りであること、それがどれほど難しいのかを、

この頃の私は、身をもって知ることになります。


大きな発作が起きたあの日から、私の毎日は激変しました。

「また倒れたらどうしよう」

「人前で発作を起こしたらどう思われるだろう」

「もう二度と元に戻れないんじゃないか」

そんな不安が、朝から夜までずっと頭の中を占めていました。

それまでは当たり前に乗っていた電車が怖くなり、

駅のホームに立つだけで呼吸が苦しくなりました。

会社へ向かう途中で途中下車して、トイレに駆け込んで泣いたことも何度もありました。

ようやく出社しても、誰かと話すのが怖くて、目を合わせられませんでした。

顔は笑っていても、心は怯えていました。

「また発作が起きたらどうしよう」

「また周りに迷惑をかけたら…」

怖くて、でもそれを誰にも言えなくて、

「これくらいで休むのは甘えだよね」と、自分に言い聞かせていました。

親にも本当のことは言えませんでした。

心配をかけたくなくて、明るくふるまっていました。

夜、一人で泣いたあと、朝になれば何もなかったふりをして会社に行きました。

でも、心は確実に壊れていきました。

食べられない。

眠れない。

笑えない。

息をするだけで精一杯。

「普通に暮らすこと」

そのたった一つのことが、どうしてこんなに難しいのだろうと思っていました。

「死にたい」と思った夜もありました。

でも、そんなことを考えてしまう自分をまた責めて、さらに苦しくなって。

心がもう、自分の手の届かないところにあるような感覚だったのです。

周りの人は普通に通勤して、笑って、会話しています。

私はただ、朝起きるだけで、もう1日分のエネルギーを使い果たしていました。

それでも私は、「元に戻りたい」と願っていました。

でも、“元の自分”って、なんだったんだろう――もう、わからなくなっていました。

この頃の私は、ただ生きているだけで精一杯。

それが、私の「日常」だったのです。

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