――「普通に過ごすこと」が、どうしてこんなに難しいの?
病名がつく前、私はただ「おかしくなったのかな」と思っていました。
毎日がいつも通りであること、それがどれほど難しいのかを、
この頃の私は、身をもって知ることになります。
大きな発作が起きたあの日から、私の毎日は激変しました。
「また倒れたらどうしよう」
「人前で発作を起こしたらどう思われるだろう」
「もう二度と元に戻れないんじゃないか」
そんな不安が、朝から夜までずっと頭の中を占めていました。
それまでは当たり前に乗っていた電車が怖くなり、
駅のホームに立つだけで呼吸が苦しくなりました。
会社へ向かう途中で途中下車して、トイレに駆け込んで泣いたことも何度もありました。
ようやく出社しても、誰かと話すのが怖くて、目を合わせられませんでした。
顔は笑っていても、心は怯えていました。
「また発作が起きたらどうしよう」
「また周りに迷惑をかけたら…」
怖くて、でもそれを誰にも言えなくて、
「これくらいで休むのは甘えだよね」と、自分に言い聞かせていました。
親にも本当のことは言えませんでした。
心配をかけたくなくて、明るくふるまっていました。
夜、一人で泣いたあと、朝になれば何もなかったふりをして会社に行きました。
でも、心は確実に壊れていきました。
食べられない。
眠れない。
笑えない。
息をするだけで精一杯。
「普通に暮らすこと」
そのたった一つのことが、どうしてこんなに難しいのだろうと思っていました。
「死にたい」と思った夜もありました。
でも、そんなことを考えてしまう自分をまた責めて、さらに苦しくなって。
心がもう、自分の手の届かないところにあるような感覚だったのです。
周りの人は普通に通勤して、笑って、会話しています。
私はただ、朝起きるだけで、もう1日分のエネルギーを使い果たしていました。
それでも私は、「元に戻りたい」と願っていました。
でも、“元の自分”って、なんだったんだろう――もう、わからなくなっていました。
この頃の私は、ただ生きているだけで精一杯。
それが、私の「日常」だったのです。